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東京高等裁判所 昭和34年(う)1826号 判決

被告人 李相善

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年に処する。

原審未決勾留日数中二五日を右刑に算入する。

理由

しかしながら職権により本件記録並に原判決を精査し、原判決挙示の各証拠を検討すると、被告人が原判示第二、第三の各変圧器四台を窃取したのは、いずれも昭和三四年三月上旬頃のことであつたことが確認できる。(もつとも原審証人山田三蔵は原判示第二の事実の発生が昭和三三年三月頃の如く供述しているが、右供述は他の証拠に照らし昭和三四年三月頃の誤解であることが明らかである)従つて、右各事実を昭和三三年三月上旬頃と認定した原判決は、犯行年月日の認定の点において引用証拠との間にくいちがいがあつて、到底破棄を免かれない。

なお、原審証人金順台は当審証人として証言するに当つて、さきの証言を飜えし、原審における証言は、取調べ警察官からそのように言わないと当時差押えられていた同人所有の自動三輪車を返還しないと脅かされ、やむなく虚偽の陳述をしたものであり、自分は昭和三四年三月上旬頃には新津市には居住せず、従つて被告人の依頼により原判示第二、第三のトランスを運んだ事実はないと供述するに至つた。しかし、当審証人奥田一男、同具武会、同李鐘煥の各供述に照すと、金順台は元富山市内に居住していたが、新津市内に妻の実家があつたため昭和三四年正月には新津市に来り、同市内在住韓国出身者の新年会に出席しており、その後、一旦富山市に戻つたが、同年旧正月に再び新津市に来つて三月上旬頃迄同市内に滞在し、その間松村こと具武会に頼まれ自動車の運転に従事していたことが認められる。その他当審で取調べた金順台の検察官並に司法警察員に対する各供述調書の記載に照らすと、金順台の当審公判廷の証言はたやすく措信し難く、右証言によつては前記認定を左右するに足りない。

しかして、原判決は判示事実を全部併合罪として一括処断したものであるから、刑事訴訟法第三九七条第三八二条第四〇〇条但書に則り、原判決は全部これを破棄した上、検察官が当審公廷で原判示第二、第三の事実につき起訴状記載の犯行年月日が「昭和三三年」とあるのを「昭和三四年」と訂正したので、右訴因に基き、当裁判所において直ちに更に判決することゝする。当裁判所が認定した罪となるべき事実及びその証拠は、原判示第二、第三事実中「昭和三三年三月初め頃」とあるを、いずれも「昭和三四年三月上旬頃」と変更する外、原判示のとおりである。

(裁判官 山本謹吾 渡辺好人 目黒太郎)

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